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「安全靴、自分で買えって言われたんですけど、これ普通ですか」
後輩にそう聞かれたことがあります。
僕は施工管理12年目の現場監督です。
先に正直に書いておきます。
僕の会社は、安全靴も作業着も支給でした。
だから「自腹で買う側」のきつさそのものは、僕は経験していません。
ただ、同じ現場に自腹の人はいました。
元請は支給、下請は自腹。
その差を毎日見てきた立場としてなら、書けることがあります。
そして調べていくうちに、思っていたのと違う事実に行き当たりました。
法律は「安全靴を履かせなさい」とは書いていますが、「会社が買いなさい」とは書いていません。
では自腹は合法なのか。
そう単純でもありませんでした。
自腹にするなら、会社の側に踏んでおくべき手続きがあります。
この記事では、条文が実際に何を書いているのかと、「自分で買う」と「給与から引かれる」で何が変わるのかを整理します。
会社を疑うための記事ではありません。自分の会社がどちらの制度なのかを、確かめられるようにするための記事です。
🔍 まずは建設業界の求人を見てみたいなら
建設JOBsで求人を見てみる →①法律は「安全靴は会社が買え」と言っているのか

結論から書くと、言っていません。
安全靴について定めているのは、労働安全衛生規則の第558条です。
条文はこうなっています。
事業者は、作業中の労働者に、通路等の構造又は当該作業の状態に応じて、安全靴その他の適当な履き物を定め、当該履き物を使用させなければならない。
読んでほしいのは最後です。
「使用させなければならない」。
つまり会社には、労働者に安全靴を履かせる義務があります。
そしてもうひとつ、見落とされがちな言葉があります。
「定め」という部分です。
会社は「うちの現場ではこれを履け」と指定する側だ、ということです。
さらに第2項では、労働者の側にも義務が書かれています。
使用を命じられたら、使わなければならない。
安全靴を履かずに現場へ入れないのは、会社の方針である前に法令です。
ここまでは、現場の感覚どおりだと思います。
問題はここからです。
この条文のどこにも、「誰が代金を払うか」が書かれていません。
履かせろ、指定しろ、とは書いてある。
買え、とは書いていない。
法律が黙っているものは、法律だけでは決まりません。
だから「自腹=即違法」とは言えないのです。
ここが、この話のややこしいところの入り口です。
②同じ保護具でも、条文の書き方が違う

調べていて、一番意外だったのがここでした。
安全衛生の条文には、「備えなければならない」と書かれているものがあります。
たとえば同じ労働安全衛生規則の第593条は、著しく暑熱・寒冷な場所での業務や、有害物を取り扱う業務などについてこう定めています。
当該業務に従事する労働者に使用させるために、保護衣、保護眼鏡、呼吸用保護具等適切な保護具を備えなければならない。
「備えなければならない」。
これは、会社が用意しておく話です。
一方、安全靴の558条は「定め、使用させなければならない」でした。
備える、とは書かれていない。
| 条文 | 対象 | 会社に課された義務 |
|---|---|---|
| 安衛則558条 | 安全靴などの履物 | 定める・使用させる(費用の記載なし) |
| 安衛則593条 | 有害業務の保護衣・保護眼鏡・呼吸用保護具など | 備える |
現場では「安全靴だって保護具なんだから、会社持ちが当たり前だろう」という言い方をよく聞きます。
気持ちはとても分かります。
ただ、条文はそこまで言っていません。
ひとまとめに「保護具」と呼ばれているものが、条文のレベルでは書き分けられているからです。
誤解しないでいただきたいのは、これは「自腹が正しい」という意味ではないということです。
安全衛生の法律が費用について沈黙しているだけで、沈黙は許可ではありません。
費用の話は、別の法律のほうで条件がつきます。
それが、次の労働基準法です。
③自腹にするなら、就業規則に書いていなければならない

ここがこの記事の本題です。
労働基準法の第89条は、会社が就業規則に何を書かなければならないかを定めています。
その中に、こういう項目があります。
労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
「作業用品」。
安全靴も作業着も、ここに入ります。
読み方はシンプルです。
負担させる定めをするなら、就業規則に書きなさい。
裏返すと、就業規則に何も書いていないのに負担させるのは通らない、ということになります。
つまり、順番が逆なんです。
「法律に禁止と書いていないから自腹でいい」ではありません。
「自腹にしたいなら、先に就業規則に書いておく」が正しい順番です。
①で見たとおり安全衛生の条文は費用に沈黙していますが、労働基準法のほうは手続きを求めている。
ここが、通販サイトの「会社支給が一般的です」で終わる説明との違いです。
但し書き:10人未満の会社はどうなるのか
大事な例外があるので、ここは飛ばさないでください。
第89条が就業規則の作成を義務づけているのは、常時10人以上の労働者を使用する会社です。
10人未満の会社には、そもそも就業規則を作る義務がありません。
建設業には、こういう規模の会社がたくさんあります。
その場合は「就業規則が無いから違法」ではなく、雇用契約書や労働条件通知書に何が書いてあるかという話になります。
だから、条文を持ち出す前にやることがあります。
自分の会社がどちらなのかを先に確かめることです。
給与から引かれるものの話は、こちらでも整理しています。
【建設業 社会保険料】なぜ現場監督は損しやすい?4〜6月の残業が1年分の保険料を決める仕組み
④「給与から天引き」は、まったく別の話

ひとくちに自腹といっても、2つのパターンがあります。
1つは、自分で店に行って買ってくるパターン。
もう1つは、会社がまとめて買って、給与から引かれるパターンです。
後者は、③よりも条件が厳しくなります。
労働基準法の第24条に、賃金は全額を支払わなければならないという原則があります。
賃金支払いの5原則のひとつで、「全額払いの原則」と呼ばれるものです。
税金や社会保険料のように法令で定められているものは、この例外として引くことができます。
毎月の明細から所得税や厚生年金が引かれているのは、これです。
では作業着代はどうか。
法令で決まっているものではないので、引くには労使協定が必要とされています。
労働組合、または労働者の過半数を代表する人との、書面の取り決めです。
しかも、労使協定さえあれば何でも引けるわけではありません。
実際に控除するには、就業規則の規定か、本人の同意も要るとされています。
| 自腹のかたち | 会社側に必要なもの |
|---|---|
| 自分で買う | 就業規則(等)に負担の定め |
| 給与から天引き | 上記+労使協定(加えて、就業規則の控除規定や個別の同意も必要とされています) |
※控除の要件は、解説によって整理の仕方が分かれる部分です。
実際の判断は労働基準監督署などにご確認ください。
「気づいたら明細から引かれていた」という状態は、この手続きのどこかが飛んでいる可能性があります。
ただし、ここは慎重に書きます。
引かれている=即違法、ではありません。
労使協定は事務所の掲示板や書庫に置かれていることが多く、本人が見ていないだけというのは普通にあります。
僕自身、掲示板の書類を全部読んだことがあるかと言われれば、ありません。
だから最初にやることは、抗議ではなく確認です。
※本記事は2026年8月時点の法令に基づいて整理したものです。
個別の事情によって結論は変わりますので、最終的な判断は社内の相談窓口や労働基準監督署などにご確認ください。
⑤元請は支給、下請は自腹——現場で見てきたこと

条文の話が続いたので、現場の話に戻します。
冒頭に書いたとおり、僕の会社は支給でした。
ヘルメットも安全帯も作業着も、入社したときに一式渡されます。
だから、自腹で買う側の金銭的なきつさは、僕は経験していません。
ここを経験したふりで書くのは違うと思うので、はっきり書いておきます。
でも、同じ現場に自腹の人はいました。
朝礼で並ぶと、装備の見た目でだいたい分かります。
支給の人は、会社のロゴが入った同じ作業着を着ています。
自腹の人はバラバラです。
量販店で買ってきた人もいれば、何年も同じものを繕いながら履いている人もいます。
安全靴は消耗品です。
解体まわりや土工の現場だと、半年ももたないことがあります。
踏み抜き防止の入っていない靴で釘を踏めば、その日で終わりです。
だから買い替えないという選択肢が無い。
「安全靴がまた減った」というのは、その人にとっては、減らせない固定費がまた出ていくという意味です。
このあたりは、現場を回る車の維持費とよく似ていると思っています。
仕事のために要る金なのに、給料のほうから出ていく。
そして出ていっていること自体に、本人も気づきにくい。
毎月の請求書が来るわけではないからです。
同じ「仕事のために出ていくお金」として、車の維持費もまとめています。
【現場監督 車 維持費】現場を回る車は年いくら?10年乗ってわかった「削れる費用・削れない費用」
ひとつ書いておきたいことがあります。
僕はこの記事を、「会社を疑うための記事」にはしたくありませんでした。
支給の会社が善で、自腹の会社が悪、という単純な話ではないからです。
自腹でも、手続きが踏まれていて、その分が手当や単価に乗っているなら、制度としては成立しています。
実際、道具は自分で選びたいという職人さんもいます。
支給品の安全靴が足に合わない、という話も現場ではよく聞きます。
問題なのは、自分がどちらの制度の中にいるのか、本人が分からない状態のほうだと思っています。
⑥まとめ:確かめる順番

長くなったので、要点を順番に置いておきます。
- 安全衛生の条文は、費用を決めていない(安衛則558条は「定める・使用させる」義務のみ)
- 同じ保護具でも「備える」と書かれた条文は別(安衛則593条)。ひとまとめにしない
- 自腹にするなら定めが要る(労基法89条・作業用品の負担)
- 給与天引きはさらに要件が重い(労基法24条・労使協定)
- 10人未満の会社には就業規則の作成義務がない。その場合は雇用契約・労働条件通知書を見る
そのうえで、実際に動く順番はこうです。
まず、自分の明細を見る。
次に、就業規則か雇用契約書を見る。
条文はそのあとで足りるはずです。
条文を覚えても、自分の会社が何をどう決めているかを知らなければ使えません。
逆に、明細と就業規則さえ手元にあれば、この記事の内容はそのまま照らし合わせに使えます。
明細そのものの読み方は、こちらにまとめています。
【現場監督の手取り】年収別早見表と手取りを増やす5つの方法|現役10年が給与明細で解説
確かめた結果に納得できないなら、そのときに相談先があります。
社内の相談窓口か、労働基準監督署です。
ここで煽るつもりはありません。
動くかどうかは、明細を見てから決めても間に合います。
年に何足も買っていると、金額としては小さくありません。
それが手当に乗っているのか、それとも自分の財布から出ているだけなのか。
そこがはっきりするだけでも、次に考えることが変わります。
🔍 装備も手当も、会社によって差があります
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では、またー!
今日もありがとう!良き日を😁!

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